この記事は、クレニオセイクラルセラピー(頭蓋仙骨療法)について述べた記事です。
医療現場や代替療法、民間療法の場で、様々な方達が活用しており、米国を中心とした世界で人気のあるセラピーです。
このセラピーに興味のある方、初めて聞いた方、どのような方にも分かりやすいように記事をまとめてみました。
あなたの参考になれば幸いです。
クレニオセイクラルセラピーとは
クレニオセイクラルセラピーとは、アメリカのジョン・E・アプレジャー医師が体系化した、様々な心身の機能障害に対して行うタッチセラピーで、痛みや精神の問題、小児の発達の問題、原因不明の体調不良などに有効な効果例がたくさん見られます。
アプレジャー医師は、外科手術中に人間の脊髄硬膜が、膨らんだりしぼんだりしているのを発見し、呼吸や心臓の拍動とも違う、人体が発する未知の動きに興味を抱きました。その動きを人体、主に頭蓋骨(cranium)や仙骨(sacrum)に触れることで感じ取れることを発見し、そのリズムを利用して様々な心身の不調が改善に向かうことを確認していきました。
この人体が発する未知のリズムは、アプレジャー医師からさかのぼること約80年前に発見されていましたが、目視でそのリズムを捉えたのはアプレジャー医師が最初でした。
アプレジャー医師はそのリズムを、
クレニオセイクラルリズム(cranio-sacral rythm)
と名付け、そのリズムを生み出している頭蓋骨と仙骨、そしてこの二つの骨をつないでいる硬膜が織りなす駆動システムを、
クレニオセイクラルシステム(cranio-sacral system)
と名付けました。
クレニオセイクラルセラピーは、まさにこのクラニオセイクラルシステムに対し、徒手接触によって操作を加え、心身の不調を整えようとするセラピーです。
クレニオセイクラルシステムのメカニズム
アプレジャー医師が発見したクレニオセイクラルシステムは、どのような構造をしており、また何を動力源としてリズムを刻んでいるのか、解剖学的にそのメカニズムに言及します。
私たちの脳や脊髄、そして末梢神経は、髄膜というものに覆われています。髄膜炎という病気を聞いたことがあるかもしれませんが、まさに髄膜炎はこの髄膜の炎症です。
髄膜は3層の膜組織によって構成されており、外側から硬膜(こうまく)、くも膜、軟膜(なんまく)と呼びます。
さらに、この3層の膜はガチガチにくっついているわけではなく、目視できないレベルでの血管や神経、結合組織でゆるく結合しており、それぞれの膜の間にごくわずかな空間があります。その主たるものが、くも膜下腔です。
その空間を満たしているのが、脳脊髄液という液体です。
髄膜炎にかかって検査をするとき、腰椎の間から脊髄に注射して髄液を採取します。この髄液の正式名称が、脳脊髄液です。
この脳脊髄液は、脳や脊髄、全身の神経を包んでいる髄膜の中に存在し、脳や神経を保護したり、栄養を与えたり、老廃物を排出する役割を持っています。
脳脊髄液は、しばしば豆腐パックのなかの液体に例えられます。
頭蓋骨と髄膜が入れ物で、その入れ物に満たされた液体の中に豆腐が浮かんでいる。
スーパーでよく見る光景です。
これはあり得ない状況ですが、ちなみに脳脊髄液が全くない状態で、人間が歩いたらどうなるか。
足を踏み出して踵を地面につけた瞬間、踵から骨を通して登ってくる地面からの衝撃により、一瞬で脳震盪を起こし気絶してしまうと言われています。
豆腐もおそらくあの液体に満たされていないと、輸送の衝撃でボロボロになったり、空気にふれてあっという間に変色劣化しそうですね。
脳脊髄液は血液から作られるので、私たちが食事から摂取した栄養を含んでおり、それを脳や神経に与えています。それと同時に、脳や神経から出た老廃物を静脈血に戻し、体外に排出しています。
脳脊髄液は、脳の中の脈絡叢というところで作られて、くも膜顆粒というところから静脈血へと排出されます。
アプレジャー医師が感じていた未知のリズムは、まさにこの脳脊髄液の産生と排出によって起こる、髄膜の膨張と収縮だったのです。
寄せては返す波のように、この膨張と収縮のリズムは一分間に6~12回の感覚で検知できます。
のちにアプレジャー医師は、髄膜を直接触れなくても、頭蓋骨や骨盤、体幹や四肢といった、体のあらゆる部位を触れることでこのリズムを感じることが可能だと発見しました。
そして、このリズムが乱れることによって様々な不調が発生し、そのリズムを整えることで不調を改善できることを発見しました。
クレニオセイクラルシステムと膜組織
クレニオセイクラルシステムと、そのシステムによって生み出されるクラニオセイクラルリズムは、脳脊髄液の産生排出による髄膜、主として硬膜の膨張収縮によって引き起こされますが、人間の体の全て、つまり骨・内臓・神経・筋肉・皮膚などは
一枚の膜組織
によって繋がっています。
この一枚の膜は、骨の部分では骨膜と呼ばれ、内臓では腹膜と呼ばれ、神経では髄膜と呼ばれ、筋肉においては筋膜と呼ばれます。
部位によって名前が変わるだけで、その正体は一枚の膜です。
ちなみに筋膜はこんな感じです↓
これは鶏肉の皮と身、つまり筋肉との間にある膜組織ですが、これが筋膜です。このような膜が、体のあらゆる組織の間に存在し、すべてを繋げているのです。
クレニオセイクラルシステムの構成要素の一つである硬膜も、この膜組織の一つです。
硬膜の中で起きている、脳脊髄液の満ち引きが、どうして体表から感じ取れるのか。
その理由が、この膜組織の繋がりにあります。私たちは、皮膚やその下にある脂肪組織、さらにその下にある筋肉や骨格、それらのさらに下にある脳を含む臓器の動きを、それらをつなぐ一枚の膜を介して感じ取っているのです。
にわかには信じがたい話ですが、ヒトには誰でもそれを感じ取る力があります。
その力を知らないだけ、意識しないだけ、使っていないだけです。
いちどその力を使い、人体の微細な動きを感じ取ってしまえば、もうそれを否定することは出来ません。感じ取ることが当たり前になります。
あたかも、熱い冷たいというありふれた感覚を感じるかのように。
クレニオセイクラルシステムの破綻が起きる原因
クレニオセイクラルシステムは、神経系を保護して栄養を与えたり老廃物をさらったりするため、ヒトのあらゆる生命活動に影響を及ぼすシステムですが、そんな重要なシステムにも関わらず、いとも簡単に破綻してしまいます。
例えば、
交通事故による強い衝撃、骨折、炎症、損傷、出産時に受けたダメージ、コンタクトスポーツ、暴力、精神的ストレス、環境汚染や添加物など
あらゆる物理的精神的ストレスにより
膜組織が歪む
ことによって生じる可能性があります。
特に出産時に生じる膜組織の歪みはバーストラウマとも呼ばれ、吸引分娩による頭蓋骨や硬膜の歪みや、陣痛促進剤による母体と膜組織へのストレス、帝王切開による気圧変動でかかる硬膜へのストレス、臍帯が首に絡まってしまう頸部へのストレスなど、本人にも自覚がないところで膜の歪みが生じている可能性もあります。そして、それに対処しない限り一生にわたってそのダメージの影響を受けることになります。
先述したとおり、膜組織は人体の全てをつないでいます。仮に膜組織のどこか一点が歪んだとすると、その歪みの影響はその場にとどまらず、全身に影響を及ぼすことになります。
たった一か所の歪みと、それによって生じる制限は、全身に及びます。自分に自覚のない症状や不調などは、まさに自覚のない場所で生じている歪みが原因かもしれません。
クレニオセイクラルセラピーは、歪みをとって流すセラピー
クレニオセイクラルセラピーは、頭部や骨盤周囲をメインに、体表を触れることで膜組織にアクセスし、歪みを探し当て、歪みをとっていきます。
体表に触れる圧力は最大でも5g程度で、ごくごく軽微なタッチで行います。触れているかどうか分からない程度のタッチが、体の生体反応を引き出し、膜組織や筋骨格系の歪みを優しく解きほぐしていきます。
クレニオセイクラルセラピーの一例
硬膜の歪みが取れると、脳脊髄液が正しく循環し、脳や神経にたくさん栄養が届き、老廃物は洗い流されます。すると、脳や神経の働きが正常に近づき、神経系の不調や異常が改善されます。
筋膜や骨格の歪みが取れると、血液やリンパの流れが促進され、全身の細胞に栄養が行き渡り、老廃物が体外へ排出されやすくなります。その結果、神経を含むあらゆる不調や異常が改善されます。
クレニオセイクラルセラピーの効果例
効果が認められる例として、以下が挙げられます。
頭痛、偏頭痛、うつ、不安、目耳鼻の問題、目まい、耳鳴り、睡眠の問題、顎関節の問題、衝撃を受けた後の様々な後遺症、自閉症、学習障害、脳や神経の手術後の不調、慢性肩こり、慢性腰痛、慢性背部痛、側弯症、内臓の不調、自律神経失調、筋膜の問題、妊娠出産に関わる障害や問題など
実に多岐にわたる心身の問題に対処できます。これらの他にも、硬膜に起因する問題であれば、このセラピーで改善する可能性があります。
クレニオセイクラルセラピーの禁忌
禁忌としては、
頭蓋内圧亢進症、脳卒中急性期、脳動脈瘤、多量の出血、延髄ヘルニア、頭蓋骨骨折急性期、脳脊髄液減少症、二分脊椎、アーノルドキアリ奇形など
一般的に急性の出血や骨折、頭蓋内圧が高まることが避けられるべき症状や病気に関しては禁忌となります。
クレニオ?クラニオ?
頭蓋仙骨療法についてインターネットで調べていると、
クラニオセイクラルセラピー
と記載していたり、いっぽうで
クレニオセイクラルセラピー
と記載していたりして、いったいどちらが正しいのか分からなくなります。
結論から言えば、どちらも頭蓋仙骨療法を指しています。
では何が違うのか。
それは、どこで教えられている頭蓋仙骨療法で、その人がどこで学んだかの違いです。
頭蓋仙骨療法に関する最も歴史ある世界最大の教育機関は、アプレジャー医師が創設した
です。1970年代の創立以来、アプレジャーインスティチュートは122か国でセミナーを展開し、その認定を受けたセラピストは現在132,0000人にのぼります。
このアプレジャーインスティチュート創設の2年後に作られた日本支部、
では、クラニオではなく英語の発音そのまま
クレニオ
と呼称します。クラニオという発音は、いわゆるジャパニーズイングリッシュです。
クラニオと呼称する頭蓋仙骨療法を実施している人は、アプレジャーインスティチュート以外のセミナーに参加し、学んでいる可能性が高いです。ちなみに私も、アプレジャーのクレニオを学ぶ前は、クラニオの頭蓋仙骨療法を学んでいました。
ただやはり、何事もルーツ・本家本元を知ることが大事。実際に学んでみて、目から鱗の連続でした。
温の手では、令和6年4月から、正式メニューとしてこのクレニオセイクラルセラピーを開始します。
皆様のご期待に沿えるよう、より一層精進してまいります。
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